「地域に新しい食文化を」

株式会社ヨロチョー

代表取締役社長 北垣博康さん


 

「新しい食文化を通して、お客様・家族・地域にヨロチョースマイルを届けます」

を経営理念に掲げる『株式会社ヨロチョー』。ミスタードーナツや大戸屋などのフランチャイズ経営を行なわれている。

 

今回は、代表取締役社長の北垣博康さんにお話を伺った。

 


 

 

兵庫県豊岡市に生まれた北垣さん。大学進学を機に上京し、学生時代を東京で過ごされた。

 

 

「旅と本にふれた学生時代」

 

「学生時代は色々なところに行きましたね。印象に残っているのは北海道とハワイ。北海道は友人のクルマでかなり長い距離を走りました。東京へ戻ってきたら、友人のクルマが壊れてしまいました(笑)」

 

「ハワイに半月滞在したこともありましたね。クルージングで島巡りをしたことが印象に残っています。英語は話せなかったので、日本語でなんとかコミュニケーションをとりました。案外何とかなりますね(笑)」

 

 

 

アクティブに色々なところへ足を伸ばしていた一方で、下宿先に籠り、たくさんの本を読んでいたという北垣さん。大学入学まではあまり本を読まなかったそうだが、本を読むようになったきっかけは何だったのだろう。

 

「あるとき、『人間的に強くなるには孤独に耐えることが必要だ』と思ったんです。『人と話さずにどれくらいの期間生活できるんだろう』と思って、講義に出ず下宿先に籠った時期がありました。その時から、よく本を読むようになりましたね。」

 

「でも、下宿先には僕よりもたくさん本を読む人がいて、積み上げた本の重さで床が落ちていました(笑)」

 

 

下宿先で面白い方々と生活できたことも、北垣さんにとって良い経験になったそうだ。

 

 

「出版社に就職してから、家業を継ぐまで」

 

現在は飲食店を経営されている北垣さんだが、大学卒業後に就いた仕事は出版社だった。

営業の仕事で、神奈川県や静岡県にはかなり足を運んだとのこと。旅が好きだったので、色々な場所を回れる営業は楽しかったそうだ。

 

出版業界で順調にキャリアを積んでいく北垣さんだったが、そんな日々に転機が訪れる。

ヨロチョーの創業者である父親から『鳥取で一緒に事業をしないか』と声がかかったのだ。

 

「『出版の仕事をもう少しやりたい』という思いもありましたが、『いずれは家業を継がなくてはいけないのでは』という気持ちもあったので、父に声をかけてもらったのは良いきっかけだったと思います。」

 

 

 

鳥取駅前にミスタードーナツが開店するタイミングで、北垣さんはヨロチョーへ入社した。ヨロチョーは当時豊岡市で事業を行っていた。北垣さんは右も左も分からない中、鳥取市での初めての飲食店を手掛けることになる。

 

「父は、当時大阪にオープンしたミスタードーナツの商品を食べ、その美味しさに惚れ込んだそうです。『山陰の方にも、美味しいドーナツを食べてもらいたい』という想いから『ミスタードーナツ鳥取駅前ショップ』をオープンしました。」

 

 

 

北垣さんは飲食業の経験がなかったので、店舗運営は何もかもが初めて。しかも当時は24時間営業だったので、スタッフの確保やシフト編成、人材育成などに苦労されたそう。

 

「とにかく店舗の存続のために、一つ一つ必死で取り組みました。」

 

「お客様は、自分の住んでいる場所の近くにミスタードーナツの店舗ができて、喜んでくれていたと思います。商品はもちろんのこと、店舗内のアメリカの雰囲気など、鳥取にないものを持ち込めた。開店当時は『鳥取にこんなに人がいたのか』と思うくらい長い行列ができました。お客様の期待を励みにして、精一杯働きました。」

 

 

 

その後、ミスタードーナツ鳥取駅前ショップは、2018年に閉店するまでの37年間、多くの鳥取の方に愛された。

 

「閉店が決まってから、多くの反響を頂きました。『青春時代の思い出の場所でした。』『無くなるのは寂しいです。』『やめないでください。』と。それほど多くの方々に愛されていた店舗だったことを改めて知り、感謝の気持ちでいっぱいになりました。鳥取のみなさんの思い出の場所になれていたことをとても嬉しく思います。」

 

 

「フランチャイズ経営の面白み」

 

社長に就任した北垣さんは現在、フランチャイズしている企業の本部と、実際に店舗を運営する現場を繋ぐお仕事をされている。現場の声を本部に伝え、よりよい店舗運営を目指している。

フランチャイズ経営は、何事も本部の意向に従うようなイメージがあるが、実際はどうなのだろうか。

 

「フランチャイズといっても、すべてガチガチに制限があるわけではありません。地元オリジナル商品の開発・提供を弊社のスタッフが行うこともあります。地方の食材を生かしたメニューなど、フランチャイズ経営の中にも、弊社独自で取り組める余白があります」

 

「また、弊社ではフランチャイズだけでなく、オリジナルの業態である『マンナ(イタリアンレストラン)』を運営しています。オリジナルの店舗があるからこそ、フランチャイズ店舗への新しい視点が得られることもありますね。そういう意味でオリジナル店舗の存在は重要です。」

 

オリジナル店舗を持つことで、フランチャイズのマニュアルの効率の良さや意図がわかる。逆に土地に合わせた対応ができたり、本部へ現場の声を客観的に伝えることができるなど、実践者としての主体的な意見が出せるということである。

 

 

 

フランチャイズ展開についてもうひとつ質問してみた。

鳥取大学近くにある「トマト&オニオン」「大戸屋」もヨロチョーが経営する店舗である。隣同士の二店舗経営。単純に考えると、飲食店の横に飲食店を構えることは経営にとってマイナスにならないのかと思ってしまうが、実際は違うそうだ。

 

「お客様に選択肢を提案したいと思いました。洋食だけじゃなくて、あそこには和食もあると認識してもらえますし。『お客様の込み具合など状況を見て、入る店舗を決めたい』というニーズに応えたかったのです。」

 

隣同士に店舗を構えることにより、実際には相乗効果が生まれているとのこと。店舗に足を運んで雰囲気を見ると、そういうことも自ずと分かってくるという。

 

 

 

多くのフランチャイズ店舗を経営しているヨロチョー。フランチャイズ選択の視点について伺った。

 

「定期的に都市部に足を運び『どういう業態に人が集まるのか』『それはなぜか』を考えています。『流行は追わないが、時流を捉える』のがポイントですね。『流行』は一時的なものですが、人々の暮らし方の変化など『時流』は必ず経済に影響してきます。時流を捉えるための情報収集は色々な形で行っています。」

 

 

 

最後に、今後の展望について語っていただいた。

 

「売上が出せるかどうかも大事ですが『自分が好きなお店、自分が行きたいお店を出す』ということを大切にしたいと思っています。」

 

「せっかくつくったお店なので、お客様に長く使っていただきたい。長い間お客様に通っていただくには、使い続けたいお店づくりが重要になってきます。そのためには、まず自分が『良いな』と思う店をつくることかなと思います。」

 

「鳥取駅前のミスタードーナツもそうでしたが、店舗が地域のコミュニティの場になっていることが嬉しいですし、これからもそういった場をつくっていきたいと思っています。」

 

 


 

 

使い続けてもらうための工夫をすることや、地域に新しい食文化を持ち込むこと。また、ただの飲食店に留まらず、地域のコミュニティの場、思い出の場を創っていくこと。

 

それらの想いこそが、北垣さんの働く原点であると感じた。