四方を山に囲まれた、緑豊かな鳥取県智頭町。その自然の中にひっそりと佇み、日本の『ふるさと』の原風景を今に残す『山里料理 みたき園』。地で取れた山菜の料理などをお客様に提供し、古き良き『日本の田舎』を伝え続けています。
2018年には、『ミシュランガイド 京都・大阪+鳥取 2019』にも掲載され、話題になりました。
今回は、みたき園 女将の寺谷節子さん、若女将の寺谷亜希子さんにお話を伺いました。
みたき園は、節子さんのご主人の想いから始まったという。
「土の匂いや川の流れなど、彼の中にあるふるさとの風景が詰まった場所。一人の男のロマンから、みたき園は始まったのだと思っています。」
「『お待たせしました。いよいよ田舎の出番です』は、彼の口癖でした。」
節子さんは笑顔を見せながらそう語ってくれた。
園内の佇まいは20年前から変わらない。流れる川や、縁側の机など全てが手作りだそう。大きな岩も人力で動かし配置したという。様々な人の思いと手が加わった場所は、田舎の暖かみを感じさせる。
2017年、「仕事を一から習いたい」と亜希子さんから告げられた節子さん。
しかし節子さんはその申し出を何度か断った。亜希子さんには小さなお子さんがいるため、子育てとの両立はできないと考えたからだ。
しかし、亜希子さんから何度もお願いされるうちに、節子さんの心境も変化していった。
「これも何かのタイミングなのかもしれない。長年築いてきた みたき園の文化や田舎の暮らしを『未来に繋いでいきなさい』と誰かに言われたような気がしました。私たちにはそのお役目があるのではないかと。」
「(子育てとの両立は)最初は無理だと思ったけど、今は『ありがたい』という気持ち。ここに居てくれることを嬉しく思いますね。」
節子さんが働いている姿を小さな頃から見ていたという亜希子さん。
「子供の頃は母がずっと働いていたので、『私は母のようにはならない』と思っていました。いつも家にいて家事をするようなお母さんになりたいと思っていたんです。」
「でも結局、母と同じことをして、母を追いかけている。それに気付いたとき、『やっぱり私はこの仕事が好きだ』って思ったんです。今まではそれを見ないようにと反抗していたのかもしれません。」
「ここにいると元気になりますしね。心のどこかでは、母のようになりたいと思っていたのかもしれません。」
お客様からの声やミシュランへの掲載から、亜希子さん自身のみたき園の見方も変わってきていると話す。
「今までは特に想いはなくて、お客さんに『娘さんですか』と聞かれても『アルバイトです』と答えていました(笑)」
「今では、お客さんに『お店を続けてくれるんですね』と言ってもらうことが増えました。『そんなに大事にしてもらってる場所なんだ』『やっぱりただの食堂じゃないんだな』と思うようになりました。みなさんの想いが詰まってるという意味で、みたき園は他のミシュランに選ばれたお店に負けてないなと思うようになりました。」
「みたき園は、『田舎で暮らす』ことがすごく詰まっている空間だと思っています。今回のミシュランの場で『田舎の暮らしを食で表現している』ということを、皆さんに評価していただいたように思ったんです。それが嬉しくて、『このまま続けていってもいいんだ』と、よりいっそう自信を持つことができました。」
「華やかなものではないけれど、心が込もっていて手がかかっていて、『私たちがつくったんだ』と誇れることを同世代の人たちと取り組んでいけたら嬉しいです。みたき園は、田舎の暮らし方、生き方そのものだと思うから、それをずっと繋いでいきたいと思っています。」
みたき園では、様々な方が働かれている。外国人の方や、耳が不自由な方もいらっしゃる。
聴覚に障がいを持たれた女性がみたき園で働くことになった経緯を、そのご主人が教えてくださった。
「家族で移住先を探すための旅行をしていました。妻がたまたま みたき園を見つけて、食事をすることにしたんです。ひとつひとつの料理に心が込もっていること、それがお皿に現れていることに、妻とふたりで感動しました。」
「妻は『ここで働きたい』とも。移住先を探していることなど女将に一通り話すと、『だったらここで働きなさい』と。ありがたかったですね。」
「みたき園の良さ、田舎の暮らしをみんなで未来に繋いでいきたい。」
インタビューの最後に、節子さんは微笑みながら語ってくれた。みたき園はこれからも、素朴で暖かい『田舎の暮らし』を伝えていく。